リン・ラムジー監督の新作『ビューティフル・デイ』
『少年は残酷な弓を射る』のリン・ラムジー監督の新作が公開されている。タイトルは『ビューティフル・デイ』。主演はホアキン・フェニックス、音楽は『少年は残酷な弓を射る』と同じくジョニー・グリーンウッド(レディオヘッド)だ。
興味はあるが、これもスリラーとのことなので観るのが怖い気もする。そういえば『少年は……』は試写を観た後、あまりの衝撃にしばらくは立ち上がることもできなかった。独特の映像美を持った映画で、いまでもツイートされない日がないくらい多くのファンがいる。
また、さすがに映画ほどたびたびではないけれど、拙訳の原作小説『少年は残酷な弓を射る上・
下(リンクはhontoへ)』の感想がネット上にアップされることもある。このとても長い小説を、海外の文芸作品がなかなか読まれないと言われる時代に、しかも映画の公開が終わって6年という月日が経っても、ちゃんと読んでくれる読者がいるのだ。ほんとうにありがたいことだ。
『少年は残酷な弓を射る 上』 少年は残酷な弓を射る 下
(リンクはAmazon.co.jp)
映画と違い、原作の小説は主人公エヴァが夫に手紙を書くという形で物語が進行する。彼女はどうして夫に手紙を書くのか? しかも、まるで家でおしゃべりするような調子で近所の人の悪口を言ったり、息子ケヴィンとのやりとりを報告したりしているのに、どうしてそれをわざわざ書かなければならないのか? どうやら夫は家にいないらしい。ケヴィンが取り返しのつかない事件を起こしてエヴァが苦悶している時になぜ?
そうした謎の真相が、物語の最後の最後になって明かされる。
この本が出たころ、「厭ミス」とか「厭な本」というのがしばらく流行った時期があったが、『少年は残酷な弓を射る』の主人公であり語り手であるエヴァは理屈っぽくて皮肉屋の「厭な女」だ。同時に、とても寂しい女でもある。訳す際には、そうした寂しい厭な女にどんな口調で語らせるか、彼女の語り口を日本語で作っていくのに一番苦労した。
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