2006年4月27日 (木)
『演劇都市ベルリン』
前回お話しした『アルトゥロ・ウィの興隆』や、ベルリナー・アンサンブルについては、おもしろい本が出ています。新野守広さんという方が書かれた『演劇都市ベルリン~舞台表現の新しい姿』です。

ベルリンというきわめて政治的な都市の、さまざまな劇場とそこで行なわれてきた公演、そして1970年代から今日にいたるまでの演劇人の動きが、手にとるようにわかります。また著者は「新しいベルリンと心の壁」という章で、文学作品を紹介することによって、旧東ドイツの知識人たちの苦悩をたどるという試みをしています。
個人的には、以前に公演したこともある「フォルクス・ビューネ(けっして大きくはないけれどいい小屋でした)」の章もあったりしてうれしい。いま、ゆっくりと読んでいるところです。(画像をクリックすると、本の情報ページが開きます。)
すこし前のNHKのニュース番組で、旧東ドイツの国会議事堂が取り壊されるというような話題をとりあげていました(調べがつかないのではっきりしない内容ですみません)。ここに劇場があって、「旧東ドイツ内の数少ない文化の発信地の一つだった」が、これも取り壊されるという内容でした。
でも、この本を読むと、自由な活動だったかどうかは別として、旧東ドイツの文化活動がそんなに貧しいものだったとは思えないんですけどね。むしろ、東京などおよびもつかないような、先鋭的な舞台活動が行なわれていたように思えます。NHKは、勉強不足なんじゃないかなあ。
とはいえ、私自身も、何も知らなかったなと思いました。私がベルリンに行ったときに、この本に書かれていたようなことがわかっていたら、もっとよかったのですが。
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2006年4月25日 (火)
『アルトゥロ・ウィの興隆』
昨年、新国立劇場の海外招待作品NO.4として『アルトゥロ・ウィの興隆』が上映されました。ブレヒト作、ハイナー・ミュラー演出。出演はドイツのベルリナー・アンサンブル。(画像をクリックすると公演情報が見られます。)
ベルリナー・アンサンブルといえば、ブレヒトが結成した劇団で、その劇団の常打ち小屋の名前でもあります。
私は、前回ベルリンを訪れたときに、ここで『肝っ玉おっ母とその子供たち』を観ました。
また、そのあと足をのばしたパリでも、コメディー・フランセーズに入ったら、”La Vie de Galilée”をやっていたのです。いま思うと、これもブレヒトが書いた『ガリレイの生涯』だったのですね(フランス語だったので、当時はよくわかりませんでした-笑-)。
そのくらい、ブレヒトとベルリナー・アンサンブルにはご縁を感じていました(おお、なんと日本的!)ので、この日本公演もさっそく観にいきました。
いや、おもしろかったです。とくに、主演のマルティン・ヴトケの演技は、評判どおりの迫力。ところが、お芝居のとちゅうで、唖然の展開が。警官役の男優が、突然、洋服を脱ぎはじめたのです。ほかの出演者たちが手拍子を打つなか、どんどん脱いでいって、最後にはうすいナイロンの肌着だけの姿に。
どうですか? 子ども向けの作品に、ああいう話が出てくるのも、なんとなくわかるでしょう?
このお芝居では、劇場に入るといきなり、ロビーに組んだ櫓(やぐら)の上で、役者がヒトラーの演説を再現しているのに出くわします。この演説といい、ストリップ場面といい、日本人にはちょっと考えられない演出でした。Sachlich(即物的)というのか、なんというのか、日本ではアングラの芝居でも、もっと情感がある感じですよね。
このちがいがおもしろいのだとは思うのですが……。
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2006年4月24日 (月)
おもしろかったことの二つ目
いきなり「二つ目」なんていわれても、えっ? という方も多いでしょうが、『エスターハージー王子の冒険』のつづきです(長いあいだ、お休みしていたもんで。スミマセン)。
この本を読んでおもしろかったことの一つ目は、上の記事を見ていただくとして、もう一つおもしろかったのは、つぎのようなくだりでした。
ウサギのエスターハージー王子が、新聞を見ていると、「ふとった人、やせた人、若い男、おばさん……」につづいて「ときどき、若い女性で、なにも着ていない人が登場することがあった。」と書いてあるのです。
なんでおもしろいかということは、『ちいさなちいさな王様』の一節を並べると、わかっていただけるのではないでしょうか。
ちいさな王様をポケットに入れて家の外に出た「僕」は、通りで目に入ってくるものすべてを、王様に説明してきかせます。仕立屋さんだとか、パン屋さんだとか……そして、「男性用の鞭を売っているいかがわしい店の前にきたときには、通りの反対側を指さして」と、この本にもこういう話が出てくるわけです。
これって、すごくドイツ的! と、私は笑ってしまったのでした。(ドイツ大好き、という人たちに怒られちゃうかな?)
もしかしたら、昨年、『アルトゥロ・ウィの興隆』というお芝居を観にいったときに、同じようなことを感じたので、よけいにそう思ったのかもしれません。次回はその『アルトゥロ・ウィの興隆』のお話を。
あっ、読んでいらっしゃらない方のためにいっておきますと、『エスターハージー王子』と『ちいさなちいさな王様』のほとんどの部分は、上のようなこととは全く関係ないお話ですからね!
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2006年2月15日 (水)
2006年2月 9日 (木)
『エスターハージ王子の冒険』3
ドイツの列車の、大きな座席の上で睡魔と戦いながら数時間、ヴォルフスブルグにたどりつきました。ほとんど眠りっぱなしでしたが、幸い、全財産を盗まれることもありませんでした。
ヴォルフスブルグは、フォルクス・ワーゲンの本拠地です。列車からおりると、巨大な本社ビルと工場が、ドカーンとそびえたっているのが見えました。列車の座席も大きければ、建物も大きい。そして、重い。これが、私のドイツの印象です。
それはそのまま、ミヒャエル・ゾーヴァの絵の印象でもあります。この重さが、何ともいえない安心感を抱かせる、というのは、私だけの感想かもしれませんが。
ヴォルフスブルグで驚いたのは、リスがそこらじゅうにいることでした。いくら田舎の町とはいえ、これだけの工業都市で、こんなにリスがいるなんて。あれを思い出すと、ウサギのエスターハージー王子が列車で旅をしたってかまわないんじゃないか、そんな気になってくるのです。
私は、ここで一泊し、スーツケースをチッキにして預けて、さらに列車を乗り継ぎ、フランクフルトやカールスルーエの劇場を見に行きました。チッキの窓口の丈の高い台に、投げあげるようにして預けたスーツケースは、パリに直行して私を待っているはず……だったのですが、到着してみると、影も形もありませんでした。
結局、パリ滞在中の数日間は、毎日、地下鉄で東駅に通ってスーツケースを待ちつづけるという、トホホの旅になったのでした。エーミールのように、泥棒を追って大捕物をくりひろげることもなかったし、パリの東駅というのは、すごくローカルな匂いのあるおもしろい駅でしたし、スーツケースとも無事再会をはたしたのですが。
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2006年2月 4日 (土)
2006年2月 2日 (木)
『エスターハージー王子の冒険』
ドイツの画家、ミヒャエル・ゾーヴァの展覧会を見たのをきっかけに、ゾーヴァがさし絵を描いた『エスターハージー王子の冒険』
を読みました。
本の紹介は、翻訳者の那須田淳さんのホームページやブログにもありますし、感想もおおぜいの方が書いていらっしゃいますので、そちらをごらんいただくとして……。読んでいておもしろかったことが、二つありました。
一つは、主人公、エスターハージー王子が汽車の座席にすわっている絵です。あれは、まさにドイツの汽車! もちろん、王子がウサギで、しかもとりわけチビのウサギという事情(笑)もあるのですが。でも、ドイツの汽車の大きさ、重さって、ほんとにあんな感じ。日本人がすわると、王子と同じように、足が床につかないんですよね。
かく言う私も、いまから16年前、あれとそっくりのかっこうで汽車の座席にすわり、ドイツ国内を横断・縦断しました。
1990年のことでした。一人で日本を発ち、モスクワでアエロフロート機に乗りかえた私は、国内線扱いの古ぼけた飛行機で何時間か、お尻が凍るような思いをしたのちに、東ベルリンに到着しました。それが、7月9日。この日づけを見て、それがどういう時期だったか、すぐにおわかりになったあなた、ドイツ情報通ですね。(つづく)
これからしばらく、ドイツの話をしたいと思います。とびとびになるかもしれませんが、どうぞおつきあいください。
なお、汽車の座席にすわるエスターハージー王子の絵は、次のサイトで見ることができます⇒"百町森の「ミヒャエル・ゾーヴァの世界」ページ"(「汽車の中で」という絵です)。いまは在庫切れみたいですが、このサイトでは絵はがきが買えるみたいですよ。(絵はがき、買えるようになったようです。それとも、私の勘違い? ともかく、下のリンクをためしてみてください。百町森-3月13日記)
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