相反する要素のせめぎあいから生まれた短篇集
左の画像は『丸い地球のどこかの曲がり角で』の帯付きの書影だ。
帯に掲載されたニューヨーク・タイムズの書評は「この難しい時代に生きる我々に元気を取り戻させてくれる本」と書き、ニューヨーカーは「最悪のことはまたたく間に身近に迫ってくる」と書いている。
いったいどっちなんだ、読むと元気が出るのか、それとも不安になるのか、はっきりしてほしい、と思われた方もいらっしゃるかもしれない。だが、この本の印象としてはどちらもそのとおりなのだ。
たしかに不穏な空気に満ちた本だが、現代を生きる私たちの不安に寄り添うという意味で元気を与えてくれる本でもある。むしろ、こうした相反する要素の集合体が本書なのではないかと思う。
作者自身が刊行当時、多くのメディアに語っている。「自分はフロリダにやってきて十数年になるが、この土地に対してはいまだに愛憎半ばする思いを持っている、この相反するふたつの感情のせめぎあいこそが、これらの作品群を生み出す原動力となった」のだと。※引用は『丸い地球のどこかの曲がり角で』訳者あとがきより。
ひとつひとつの作品の中でも相反する要素が拮抗していることが多い。たとえば「ハリケーンの目」はカラッと明るい幽霊譚だが、かなりせつない物語でもある。「イポール」の中では、主人公の(そして作者の)モーパッサンへの愛憎が拮抗している。
いくつもの相反する要素がぎゅっと詰まった物語の数々。読者のみなさんにはそれを楽しんでいただけたらと思う。
| 固定リンク | 1
コメント