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2018年6月16日 (土)

アメリカでローレン・グロフの新刊が出た!

Florida1運命と復讐』の作者、ローレン・グロフの新しい短篇集が出た。彼女が現在住んでいるフロリダ州を舞台にした11篇を集めたもので、タイトルはずばり『Florida』。
 発売はアメリカ時間の今週火曜日だったが、早くも話題になっているらしく、上記のリンクを始めとする通販サイトにはびっくりするような数の書評が並んでいる。試しに見てみてください(笑)。
 グロフにはすでに『Delicate Edible Birds』という短篇集があり、そのうちの一篇「L・デバードとアリエット―愛の物語」は村上春樹さんの『恋しくて』というアンソロジーに収められている(このアンソロジー作品はどれもとても読み応えがあるし、すべて村上春樹訳なので、要チェック!)。
 村上さんはこの「L・デバードとアリエット」を評して、「短篇なのに、まるで大河ドラマを思わせるような壮大な歴史小説仕立て」と書いているが、『Florida』の短篇の中にも同じような独特な時間の進め方をする作品がある。鰐の住む沼のほとりで生まれた少年の一生を追ったもので、2012年のオー・ヘンリー賞受賞作だ。
 ハリケーン(『運命と復讐』でも印象的な使われ方をしている)を扱った作品もある。嵐が近づいてくるというのに避難もせずに自宅にとどまっていた女性のもとへ、激しい風雨をついて、元夫や元恋人、父親といった人々の亡霊が訪ねてくる話だ。いわゆる幽霊譚なのだが、じめじめしたところはまったくなく、グロフらしい笑いとエロチシズムに満ちている。こちらは2014年の『アメリカ短篇小説傑作集』に選ばれ、『アメリカ短篇小説百年の傑作撰』にも収められた。
 そのほかにエッセイ風の作品も多く、この作家の今を知ることができる貴重な短篇集と言えそうだ。なんとか日本でも紹介することができないかと思っている。
   

 

 

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『運命と復讐』 TVBrosでも紹介

Tv_brossmall 授業の準備などで忙殺されていて書くのが遅くなってしまったが、『運命と復讐
』は『TVBros』にも書評が載った。
 同誌が月刊になる直前の2月24日号掲載で、評者は放送作家・ライター・編集者の古川耕さん。この雑誌の存在は知らなかったが、ある出版関係者に話したところ、よくおもしろいコラムが載ってるわよ、とのこと。世の中には私が知らないことがまだまだいっぱいあると教えられた次第。
 さっそく買ってみたところ、特集されていたのは星野源さんのニューシングル。おそらく読者は長篇の海外文芸作品はあまりなじみがないという人たちだろうが、古川さんがとても丁寧に作品を読んでくださっていて、この記事をきっかけに一人でも多くの非・ガイブンファンがこの本を手に取ってくれたらと思った。
 文芸評論の専門家に取り上げてもらえるのはもちろんうれしいけれど、別のジャンルで書いていらっしゃる方に評価していただけたのは得難い経験だった。
    

 

 

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2018年6月 7日 (木)

リン・ラムジー監督の新作『ビューティフル・デイ』

少年は残酷な弓を射る』のリン・ラムジー監督の新作が公開されている。タイトルは『ビューティフル・デイ』。主演はホアキン・フェニックス、音楽は『少年は残酷な弓を射る』と同じくジョニー・グリーンウッド(レディオヘッド)だ。
 興味はあるが、これもスリラーとのことなので観るのが怖い気もする。そういえば『少年は……』は試写を観た後、あまりの衝撃にしばらくは立ち上がることもできなかった。独特の映像美を持った映画で、いまでもツイートされない日がないくらい多くのファンがいる。
 また、さすがに映画ほどたびたびではないけれど、拙訳の原作小説『少年は残酷な弓を射る(リンクはhontoへ)』の感想がネット上にアップされることもある。このとても長い小説を、海外の文芸作品がなかなか読まれないと言われる時代に、しかも映画の公開が終わって6年という月日が経っても、ちゃんと読んでくれる読者がいるのだ。ほんとうにありがたいことだ。

 

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少年は残酷な弓を射る 上』 少年は残酷な弓を射る 下 (リンクはAmazon.co.jp)

 映画と違い、原作の小説は主人公エヴァが夫に手紙を書くという形で物語が進行する。彼女はどうして夫に手紙を書くのか? しかも、まるで家でおしゃべりするような調子で近所の人の悪口を言ったり、息子ケヴィンとのやりとりを報告したりしているのに、どうしてそれをわざわざ書かなければならないのか? どうやら夫は家にいないらしい。ケヴィンが取り返しのつかない事件を起こしてエヴァが苦悶している時になぜ?
 そうした謎の真相が、物語の最後の最後になって明かされる。
 この本が出たころ、「厭ミス」とか「厭な本」というのがしばらく流行った時期があったが、『少年は残酷な弓を射る』の主人公であり語り手であるエヴァは理屈っぽくて皮肉屋の「厭な女」だ。同時に、とても寂しい女でもある。訳す際には、そうした寂しい厭な女にどんな口調で語らせるか、彼女の語り口を日本語で作っていくのに一番苦労した。

 

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